祭事のマナー

−正月飾りは,いつごろ,どんなものを飾るの?
●現代風のアレンジを取り入れて暮れのうちに飾る
   お正月の行事は,年神を迎えて祀るのが基本の精神。最近では,ムードを高めるインテリアとしての効果のほうが大きいようですが,もともとは,そんなお正月の行事のためのものでした。飾る時期は暮れのうちが原則。二十九日は「苦立て」,三十一日は「一夜飾り」になるといって忌む風習もあるので避け,二十八日か三十日に飾るのがしきたりです。
●門松は家庭の環境に合わせて選ぶ
   門松は,神が宿る寄代で,一般的には松の木を使って竹や梅をあしらう地方が多く見られますが,地方によって素材や形もさまざまです。現在では,伝統的な門松はスペース上の問題や門とのバランスもあるので,門柱や玄関の両側に松の枝を取りつけたり,現代風に松飾りのりースなどをつくって飾る程度で十分でしょう。いずれにしろ,通行の邪魔にならないよう各家庭の環境に合わせて,大きさやデザインを工夫することが大切です。
●神の宿る場所や入り口にしめ縄,しめ飾りを
   しめ縄は周囲の汚れを断つ神聖な場所に張るもの。神の在所である神棚は,新しいしめ縄に張り替えるようにします。しめ飾りや輪飾りも,古い年の悪や不浄を祓い清める意味があります。ですから,神の宿る場所や各神の領域の入り口,つまり玄関や床の間,仕事場台所などに飾ります。
●床の間がなければ家の中心に床飾りを用意する
   床飾りは,もともと神を祀る場所である床の間の飾りです。中央上部にしめ飾りを掛け,お正月らしい図柄や字句の掛け軸を掛けます。中央には鏡餅,その上手(右側)に屠蘇器,下手に花を活けますが,屠蘇器の代わりに香炉や置物を置いてもかまいません。床の間がない場合は,家の中心となる場所に正月飾りをすればいいでしょう。この場合,掛け軸の代わりに明るい感じの絵や舞扇など,その下に鏡餅,ミニチュアの門松や盆栽風の松飾り,干支にちなんだ置物などを置いても,お正月らしい雰囲気が出るのではないでしょうか。
●しめ飾りや輪飾りをした場所に鏡餅を供える
   神様へのお供えである鏡餅は,しめ飾りや輪飾りを飾った場所には必ず供えます。まず,三方に半紙二枚を十字に交差させて敷き,裏白というしだの葉を四隅に向けて置きます。その上に鏡餅を供え,橙をのせますが,地方によっては昆布やほんだわら,干し柿など山海の産物を飾りつけて供える風習もあります。床の間以外の場所へは,半紙の上に餅を置いたり,三方代わりに白木の盆や杉板などを使ってもいいでしょう。

−正月の祝い膳のマナーは?
●家庭の味と料理法を生かした雑煮がいちばん
   お正月の祝い膳の代表は,なんといってもお雑煮とお屠蘇,そしておせち料理です。
   お雑煮は,年神に供えた餅を家族がおすそわけとして三が日の間,毎朝いただくものです。地方によって,すまし仕立てや白味増仕立て,丸餅やのし餅,具なども違いますが,その地方はもちろん,我が家ならではの味や料理法でつくるのがいちばんでしょう。
   お屠蘇は,不老長寿といわれる正月用のお酒です。屠蘇散をみりんか清酒に浸し,しきたりでは塗りか銀,錫などの屠蘇器に入れて,三つ重ねの杯で飲みます。元旦の朝,一家揃って食卓につき,お雑煮をいただく前に順に杯をまわして飲みますが,このとき,若さを吸い取るという意味で,年少者から飲む風習もあります。お屠蘇をつぐときには三回に分け,杯を両手で持って三ロに分けて飲み干します。
●基本をおさえて我が家らしいおせち料理にアレンジ
   おせち料理の基本は四段重と控え重一つ。上から数えて一の重には,ロ取りといって,きんとんや伊達巻,かまぼこなどを入れます。二の重には鯛やさわらなど,その土地にふさわしい魚に,いかやぶりなどの焼きものとはじかみを。三の重にはお煮しめなどの煮もの,四の重は酢のものというように,料理の種類で分けて重箱に詰めます。控え重は祝い肴の昆布巻やかまぼこ,するめ,ごまめや黒豆,たたきごぼうなどを入れる方法と,ほかの重の補充用に使うこともあります。この基本さえ覚えておけば,あとは好みや材料の有無でほかの料理に取り替えることもできますし,接客の折の祝い膳にも形が整うでしょう。
   また,こういった伝統的なおせち料理以外に,最近では洋風料理や中華風にアレンジしたものもあります。器も重箱にこだわらず,オードブル皿や蓋ものを使うのも一つのアイデアです。大切なのは我が家の正月料理にすること。自慢の料理があるなら一〜二品加えたり,盛りつけを考えるなど,工夫を凝らしてお正月の祝い膳にふさわしい内容にするようにしましょう。

おせち料理は,日本料理の集大成
   現在のように,グルメ風潮に慣れてしまった世代には,おせち料理は古めかしい伝統の料理としか思えないかもしれません。しかし,本来のおせち料理はその内容や組み合わせに栄養や味覚のバランスが取れ,重箱への詰め方も合理的で美的にも完成度が高く,日本料理の集大成とも思われるほどのもの。しきたりどおりおせち料理をつくるのは,いまの家庭では大変なことですが,この料理の基本的精神は現代でも大いに生かすことができるはずです。日本人の生活の中で育まれてきた祝い膳のあり方を取り入れ,我が家なりの「おせち料理」にアレンジしたいものです。

 
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